先日、県立神奈川近代文学館を訪れ、中島孤島編/キップリング原作『狼太郎』(冨山房 明治35年)の現物をようやく目にすることができた。
中島孤島/編ではあるが、本文の一ページ目に「坪内逍遙閲 中島孤島編 渡部金秋画」と並んで記されているところみると、校閲者の坪内逍遙の手がかなり加えられていることが察せられた。
また、原作のキップリング「ジャングルブック」は、森の中の動物たちと、文字通り「野生児」のような少年が出てくる物語だとイメージしていたが、この『狼太郎』の物語は、確かに同様の設定なのだが、「太郎」と名付けただけあって、いかにも日本的な雰囲気が漂っていて、これが明治時代の「ジャングルブック」なのだと、あらためて現代との違いがわかって面白かった。このような設定にしたのも校閲者坪内逍遙の意向が強く表れているのではないかと思われた。
登場する人物や動物はすべて日本風の名前になっていて、主人公は「太郎」、山の名は「障子山」、黒い毛の狼は「羽黒の叔父さん」、「岩尾さん」という狼もいた。そして太郎が退治する虎の名は「鬼丸」であり、すっかり日本の昔話ふうであった。
書き出しも日本の昔話ふうで、
゛むかしむかし、或(ある)山奥に夫婦の狼が住んで居りました。・・・”
といった具合である。
渡部金秋の手によって描かれた「太郎」もいわゆる森の中の野生児狼少年のイメージとは少し異なっていて、たとえるなら「金太郎」のような日本風である。森の中にいるのはどこかそぐわない感じすらする。
いずれにしてもいろんな面において現代から見ると新鮮な発見のある本である。
「少年世界文学」のシリーズに含まれているとはいえ、この『狼太郎』に限ってはあまり外国的な要素は感じられない。
同シリーズのなかで、中島孤島は『蝶の魔法』という物語も手掛けているが、こちらはもう少し外国的な要素が生きている。今回、こちらも現物を見ることができたので別途別の回で取り上げてみたい。

