中島孤島の軌跡

明治生まれの文学者中島孤島の作品と人生をたどります

模範家庭文庫の愛読者たち(4)

 模範家庭文庫の愛読者たちの紹介はまだ続く。

 

 今回は、国語学者金田一春彦氏である。

  ※金田一春彦氏は1913(大正2)年生まれの言語学者国語学者。同じく言語学者である金田一京助の長男。

 金田一氏は「私の読書遍歴」というエッセイのなかで次のように書いている。

 

 ゛そのころ、冨山房という本屋があって、グリム童話集、アンデルセン童話集、アラビアンナイトの邦訳を次々に豪華な装丁で出していたが、それを父は出るたびに買ってくれた。貧乏な父としてはよく買ってくれたものと思う。中島孤島・長田幹彦杉谷代水というような人の訳だったが、こういうものは異国の作品という意識なしに読んでいった。アンデルセン童話集の「マッチ売りの少女」とか「人魚姫」とかはほんとうに美しいと思った。さし絵を岡本帰一が担当していて、そのかわいらしい子どもの姿がまたよかった。“ (金田一春彦ケヤキ横丁の住人」1983年東京書籍 より)

 

 模範家庭文庫を懐かしむ人々がみな口にするのが、このシリーズの装幀がとても豪華であったことと、またとても高価であったということだ。金田一春彦氏の父京助氏がそれほど経済的余裕のなかった時代でも迷わずこの文庫シリーズを息子に買い与えていたというのは、これらの本のこどもにとっての価値をよく理解していたからに違いない。


 父親である金田一京助は、この模範家庭文庫が刊行される前の明治40年代に、実は中島孤島とは接点があり、面識のある関係であった。それに関してはまた別の項で触れていきたいが、もしかすると京助氏が模範家庭文庫を積極的に購入してひとり息子に与えたことは、少なくとも著者の一人と(あるいはほかの著者とも面識があったかもしれないが)交流があったことが、間接的に関係しているのかもしれない、などと私は勝手に想像している。