『こども世界歴史』上巻の本文冒頭は、こんな書き出しで始まる。
゛一、世界一周旅行
かわいい諸君。
諸君はこれから世界一周旅行にでるのだと想像なさい。ようござんすか。わたしは、諸君の教師ですよ。そうして道々のあんないをするのですよ。世界一周旅行といっても、単なる漫遊旅行ではありません。また、各国の人情や風俗を、みききするばかりの旅でもありません。人間世界の開けはじめからのできごとを、国々を、いろんな人種を、ずうっと一とおりみて歩こうというのです。大むかしから今日までに、世界にどんな国があったか、どんなことがあったか、どんな人民がいたか、どんなえらい人がいたかなんぞということを、一々みまわろうというのです。”
学校の教科書の無機質な説明とは全く違って、読者をこの世界歴史の物語の世界にぐっと引き込もうという書き手の工夫が感じられる書き出しになっている。
上巻の目次は下記のとおり。
第一 歴史のはじまるまえ
第二 世界最初の文明国
第三 アダムとエバの国
第四 ひつじかいの王国
第五 幸福の島
第六 スパルタとアテネ
第七 ペルシア戦争
第八 アテネの黄金時代
第九 マケドニアの勃興
第十 世界のせいふく者
第十一 ローマの建国
第十二 ローマとカルタゴの戦争
第十三 ユリウス・ケーザル
第十四 キリストの勝利
第十五 暗黒時代
第十六 チャールス大帝
第十七 十字軍
そして、まずは「第一 歴史のはじまるまえ」として「生物の発生」という項から話を始めている。
゛諸君、わたしたちはもういまある港から船にのったのですよ。わたしたちの予定の第一日はエジプトです。これは世界の一とうはじめの文明国なのです。ですが、そこへ上陸するまえに、すこうしばかり歴史のはじまるまえのお話をしておきましょう。世界の歴史がはじまってから、つうれいは六千年ぐらいだとなっていますが、人類はそれよりなん十万年もまえから世界に住んでいました。しかし、動物や植物は、人間が発生するまえに、もういく千万年も、この地球上に住んでいました。”
というような具合である。
第一章のなかの次の項「最初の人間」は、
゛「それでは人間は、いつ、どこで、さるから分れたのか?」と、諸君はきっときくでしょう。これはなかなかむずかしい問題で、まだたしかなことは、どんなえらい学者にもよくはわからないのです。”
と始まっている。
そして、エジプト文明の話に入る前にまず石器時代のことに触れているが、そこでは
゛諸君、これから話すことは、みんなヨーロッパの話ですよ。アジアからも、アフリカからも、またアメリカからも、もっといろいろなものが発見されて、しまいに最初の人間が、いつどこで生まれたか、ということも、わかるときがくるでしょう。が、いまのところでは、ざんねんながら、ヨーロッパ以外のことは、あまりわかっていないから、しかたがありません。”
と断っている。
つまり「世界歴史」といってもここで語ることはあくまでも「ヨーロッパ」が主になってしまっていることが認識できるようにしている。
上巻では、聖書に書かれている話やギリシャ神話に出てくる都市のことにも触れながら、主にヨーロッパの歴史が語られ、最後は中世の十字軍のところまで来ている。