中島孤島の軌跡

明治生まれの文学者中島孤島の作品と人生をたどります

『こども世界歴史』(下巻)

 

 『こども世界歴史』は下巻になると、アメリカ発見、ルネサンス時代、宗教改革など、アメリカやヨーロッパの国々の動きを追い、最後は第一次世界大戦第二次世界大戦終結で締められている。

 目次は次のようになる。

   第一 アメリカ発見

 第二 文芸の復興

 第三 改革者ルーテル

 第四 旧教王フィリップ

 第五 無敵艦隊

 第六 クロンウェル

 第七 イギリスとオランダの争覇戦

 第八 フランスの黄金時代

 第九 ペートル大帝

 第十 フレデリック大王

 第十一 アメリカの独立

 第十二 フランス革命

 第十三 ナポレオンの天下

 第十四 今日の世界

 

 しかし、実は中島孤島自身は第二次世界大戦終結直後にこの世を去っているので、昭和5年の初版の段階では、第十四章「今日の世界」の内容は第一次世界大戦後までとなっている。

 そして、最後にあとがきとしてこう述べている。

 

 ゛上巻では、世界の始まりから、中世暗黒時代のお終ひまで話しましたから、下巻では、アメリカ発見から、世界戦争の後まで話してしまふつもりでしたが、思ひの外話が永くなつて、ナポレオンから後は、ゆつくり話す時間がなくなつてしまひました。

 で、ナポレオンが滅びてからの百年間は、ほんの概要だけ話して、お終ひにしましたが、此間には、色々大切な事や面白い話が沢山ありますから、近いうちに、もう一冊、此歴史の続きを書きたいと思つています。其中では、従来の世界歴史が、アジヤとアフリカから始まつて、だんだん西の方へ広がつたのとは反対に、今度はヨーロッパの文明が東へ進んで、印度やアフリカやオーストラリヤや支那や日本までも広がつて行つたことや、ワットが蒸気機関を発明してから、あとからあとからと、いろんな発明が出て、百年の間に、世界がまるで変わつてしまつたこと、又ナポレオンがヨーロッパを引掻きまはした後には、新しい国がいくつも出来て、めいめいに領地をひろげようとした結果、とうとうあの世界大戦争になつたこと、此大戦争では、飛行機、飛行船、潜水艇、タンク、毒瓦斯、ラヂオなどの新文明の利器が応用されたこと、又大戦の後には、ヨーロッパの国々がみんな弱つて、米国が世界第一の強国となり、ロシヤには、第二の大革命が起つて、新しい社会主義の共和国が出来たことなどを話して見たいと思つています。

 昭和六年九月 著者 ”

 

 このように意欲を示していたのだった。

 しかし、それは残念ながら実現せず、中島孤島亡き後は、昭和31年の改訂版で冨山房編集部によって第一次世界大戦後のいくつかの事柄と、第二次世界大戦終結後までの世界が追加されたのだった。

 

 改訂版における第十四章「今日の世界」のなかの小タイトルは、

 新時代の魔術―ドイツ帝国の出現―第一次世界大戦―大戦後の世界―日本の大陸進出―イタリアとドイツの新国民運動―日・独・伊三国同盟第二次世界大戦―太平洋戦争―国際連合につづくもの―新日本のかどで―日本の独立

となっている。

 

 それにしてもこの『こども世界歴史』という本は、学校の教科書と違って、読者に語り掛けるように、そして物語ふうに説明されているので、学校の授業で本格的に歴史を学ぶ前にこんな本に出会ったこどもたちは、歴史という分野にとても興味がわくのではないかと想像された。

 

 最後にこの本を子供の頃に愛読していた人たちのことばにも触れておこう。

 

 鶴見俊輔集12 「読書回想」1992年3月筑摩書房より)

 一九二九年(昭和四年)東京高等師範学校附属小学校に入学。(中略)へんな本ばかり読んではいけないという母親のつよい干渉をうけいれて、彼女に買ってもらった、小川某氏著『飛行機』という本を読んだ。(中略)他に中島孤島著『世界の歴史』上下(これもふりがなつき)を読んで、これもおもしろかった。また出会うことがあったら、読みなおしたい。

 ※鶴見俊輔氏は1922(大正11)年生まれの哲学者、評論家、政治運動家、大衆文化研究者。

 

 (滑川道夫「私たちの読書クラブ」国民図書刊行会 1948年 より)

 ゛ぼくが子どものころ読んだ本はね。そうそう、今でも学校や図書館にあると思うけれど、「小学生全集」「日本児童文庫」さ。(中略)ぼくは、歴史がすきだったから「國史美談」という本も愛読した。それに「こども世界歴史」上・下の本があって、これもくりかえして読んだ。”

 ※滑川道夫氏は1906(明治36)年生まれの教育者、教育学者。

 

新訂版『こども世界歴史』下巻